仮骨延長術(Distraction Osteogenesis)について

仮骨延長術_術式イラスト

仮骨延長術(ディストラクション)をご存知でしょうか。
「延長」という文字でわかるように、骨を伸ばす手術の総称です。
例えば左右の脚の長さが極端に違う場合に骨移植などを使わず、骨自体を延ばし、増大させる技術です。
最近では身長を延ばしたい方が、脚の骨延長を行うよう事例も見受けられます。
この骨延長、歯科技術でも使われているのをご存知でしょうか。
今日はこの仮骨延長術について、歯科でどのように活用されているか見ていきましょう。


仮骨延長術とは?

1951年ロシア人整形外科医により四肢に対して始められた治療法であり、デンタルインプラント領域では1990年以降米国、日本にて臨床データが蓄積され、術式が確立されました。

仮骨延長術は骨と歯茎の「高さ」が足りない場合に適用されます。
専用の延長器を利用し、骨と歯茎を少しずつ動かすことで両方を増やすことができます。

仮骨延長術の特徴

仮骨延長術の特徴として、顎骨の状態がかなり重症な患者さまに適応される骨造成術のため、日本国内でも症例は多くありません。
例えばですが、インプラント治療を行ったものの、歯科医師の技術がなかったために起こる感染症や、歯周病やインプラント周囲炎などの症状を放置したために広範囲にわたり骨と歯茎が壊死してしまったような重度な症例、交通事故などの外傷によるもの、腫瘍や嚢胞などの疾患よるものに適応されます。

そういった場合、新たに骨と歯茎を増やしていく必要がありますが、幅はともかく、土台となる骨の高さと歯茎の両方を7mm以上増やす事は非常に難しい治療となります。

ディストラクターと呼ばれる特殊な延長器を用いた仮骨延長術で、患者様の状態を随時確認しながら慎重に手術と経過観察を行う必要があります。 国内でも症例が少ない技術のため、医師の技術力と経験が大変重要なものとなります。

仮骨延長術の歴史

1951年整形外科医のG.A. Ilizarov(ロシア)により治療が始まり、1988年同氏により仮骨延長法としての術式が確立されて以降,整形外科領域で主として四肢の長管骨の延長に用いられ,発展を遂げてきた。
1992年,形成外科医J.G. McCarthy(アメリカ)が頭蓋顎顔面領域の骨変形性疾患の治療に用いた。


デンタルインプラント領域ではK. Horiuchi(日本)、O.T. Jensen(アメリカ)らが第一人者であり、術式のガイドラインを確立させた。


術式

①4本以上連続して歯がなく、5mm以上の骨と歯茎が無くなってくぼんでいる方が適応です。


②歯茎の下の部分を切開し、骨に切れ込みを加えます。


③器具(骨延長器)をネジで骨に固定します。


④専用のハンドルを取り付け、骨が上下に動かせるか確認します。


⑤ハンドルを時計回りに回転させ、1日0.3~0.5mmずつ骨と歯茎を伸ばしていきます。


仮骨延長術_術式イラスト

⑥目標とする位置まで骨を動かしたら終了です。


⑦3~4ヶ月の固定後、骨延長器を取り外します。


⑧高さと幅が十分にできた骨にインプラントを埋め込みます。


⑨3ヶ月後にインプラントが骨に固定されたのを確認後、冠を取り付けます。


術前の手術予定部位の周囲まで含めた骨と歯肉の状態の診断、
術中には周囲を走行する血管、神経の走行や骨片移動に配慮した骨切開のデザインとその部位を確実に分離させ、適切な位置に牽引装置を固定する技術、
術後は手術部位に応じて1日あたりの挙上量の判断、移動させる方向すなわちベクトルコントロール、術後感染に対する対応が必要とされる
この手術を成功させるには骨切開、骨移動を伴う骨外科(Bone Surgery)の要素に加え、インプラント埋入ポジションを正確に逆算し3次元的に理想的な位置に向かって骨移動させることができる位置に延長器を固定することが必要とされる。

また多くの場合インプラント埋入と同時に骨幅を増やすGBRや自家骨移植を併用するインプラント外科(Implant Surgery)とその後の歯肉の形態を整える歯周形成外科(Periodontal Plastic Surgery)の技術が求められる。

そのため行える医療機関が日本では少なくかつ手術適応症例数はさほど多くはないため手技の習得が非常に難しく最高難易度の手術である。

使用する機器・骨延長器

ピエゾサージェリー(超音波骨切り器)

ピエゾサージェリー(超音波骨切り器)
患者の回復が迅速で円滑に進行し、手術時間の短縮や、正確な術式により、感染や出血のリスクが低減します。

骨延長器

【長所と短所】

長所
骨と歯茎の両方の高さを無制限に増やせる。
広範囲に凹んだ骨形態(垂直的骨欠損)や過去の手術の失敗にて傷痕が残った症例に対し非常に有効である。
血管をつけたままの移植法の分類に当てはまり、抗菌薬の効果が血流により手術部に届きやすいため感染しづらく、仮に感染を起こしても最小限度のダメージで済む。
GBRに比べ術後の合併症(傷が開く、感染、造られた骨が吸収する等)が少ない。


短所と、短所に対する対応
1.手術後に腫れが出る。
 短所への対応
 手術後のスケジュールを考え手術日を決める

2.骨の高さを増やすことはできるが幅を増やすことはほとんどできない。
 短所への対応
 インプラントの埋め込みの際にGBRや自家骨移植により幅を増やす。

3.広範囲(4本以上の歯の欠損範囲)でないと適応ではない。
 短所への対応
 1日あたりの挙上量の調整や別の術式への変更を考慮する。

【最後に】

仮骨延長術は多くの歯科医院では行っていません。
理由としては、技術があまり広まっていないことが挙げられます。
さらに技術も専門的であり、特殊な技術ですので、経験している外科医が少ないことも挙げられます。

現在ではGBRなどの粒状の骨の代わりになる素材などで骨を増やしたりする事が可能ですが、増やせる量に限界があります。しかし仮骨延長術なら、歯周病などでかなりの量の骨が減ってしまっている場合でも無制限に骨と歯茎を増やすことが可能ですので重症な患者さまに特に有効です。


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インプラント治療を受けていただく際は治療方法やインプラント体の特徴をご理解いただき、患者様ご自身で納得のいく選択が可能となるようサポート致します。

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